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2013年9月

92歳 on board!

明らかにオーラを放つそのお方をチラチラと気にしながら

最初のサービスが終わりました。

「ちょっと、いま後ろの方にけっこうなご老人乗ってたけど。」

「見た!日本人男性よね?」

「・・・歳、おいくつかな。」

噂のまわるのは早いもんです。

誰が聞いたか92歳との情報が入り、

「すげー92歳だってョ!」

「日本人は元気だわー」

「わたし以前南米線でかなりの高齢者見たことあるけど、ストレッチャーだった。もう気の毒で。」

※ストレッチャー・・・医療用ベッド。機内後方のシートを取り外しベッドのまま乗せる。必要に応じてドクターかナース同伴。

知ってる。故郷で人生を終えるためストレッチャーや車イスで長距離を移動なさる「移民」の方々。強い意志には驚かされます。

さてこちらのご老人は・・・

ご家族同伴。うん、おそらくご旅行ですな。

それにしても92歳にしてヨーロッパ路線は相当な覚悟。

わたし去年じーさまたちをオランダへ連れて行ったのだって一応腹くくったもん。最悪の事態が起こっても後悔しない(だろう、たぶんこの二人は)って。

・・・92歳をお連れの、ご家族の心境たるや。

―――――

フライト中盤、

あらっ!

ギャリー横お化粧室にご本人!

まーシャッキリ、物差しの入ったような背筋。そして圧倒的な存在感。

ストレッチャーなんつったら怒られますわこれは。

よしお話してみましょう!

「あの・・・」

「・・・はい?」

すてきな笑顔!癒されるわー

(耳元で)「あの」

「今回は、ご 旅 行 で す か?」

ジェントルマン、ちょっと考えて

「あー。」

「そう、そう。」

「ど ち ら ま で 行かれるんでしょうか?」

・・・沈黙

「え?」

よしもうちょっと寄ろう。声も大きめに。

「旅行は ど ち ら へ?」

・・・

・・・

「しらーん。」

!?

なんと!!

行き先を知らないとのたまった!

自分の目的地がわからない人と出会ったのは初めてよ。

破壊力抜群の天然っぷり(笑)。

こちらはもう笑うしかなくなっちゃって

「あははそーですかぁ。」

「わし 知らんもんで。 フォッフォッフォ。」

「楽しんでいらしてくださいね。」

「あー、そう。ありがとう。」

溶けるようなスマイルとユル~い余韻を残し去っていかれました。

うん、すてきこの感じ。

説明のつかない幸せを同僚たちに届けるためギャリーへ戻ります。

「あのさ、92歳のご老人のお話ね。」

・・・

’What??’

’He doesn't know?’ え??知らないの?

(みんな目じりを下げ)

'Oh~'

'How sweeeeet !!' 超キュート!!

’Hope he will find out, yha?' そのうちわかるといいねえ。

’OK, I'm gonna keep an eye on the gentleman!’

わかった。私が面倒みるわ(笑)!

―――――

フライト終盤

ご老人に会いに、小さなお土産をもってお席へ向かいました。

「あの、失礼します。」

こういうときは正面で膝を曲げお客さまと目線を合わせるのが普通だけれど、耳元で話せるようサイドから顔をジェントルマンの真横へ。

「今日はご利用ありがとうございます。」

「あー はい、はい。」

「お客さまが92歳とうかがいまして、おそらく本日の最年長でいらっしゃいますから、」

・・・

「ほー フォッフォッ。」

「心ばかりの品ですが、記念にお持ち帰りください。」

「あー。」

「そーぅ。 ありがとう。」

「おじいちゃん良かったねえ。ありがとうございます。」

ジェントルマンの周りには奥様とお孫さんたちが。

女性ばかりに囲まれちょっとしたハーレムです。

さあ、謎を解きましょう。

「あの・・・」

「先ほどご旅行先を尋ねたんですが、ご存じないとのことで。」

・・・

「ええっ!!」

「おじいちゃん、マドリッドよマドリッド!」

・・・

「ん?」

「あ、そーか。」

「すいませんマドリッドなんです。」

「もーマドリッド行くのよおじいちゃん。」

「そーかそーか。」

・・・

なんと。

このやりとりもまたすごい破壊力だ!

「良かったですスッキリしました(笑)。」

安心したわ。92歳にミステリーツアーは酷だもの。

さあ

心配しているオランダ人たちにおしえてあげよう。ジェントルマン無事解決したよ、マドリッドだったよと。

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ベイビー事情

旅客便には様々な世代のお客さまが乗っていらっしゃいます。

大将が出会った最高齢は92歳。日本人のとってもチャーミングな紳士でありました。この時のエピソードはまた改めて書くこととして・・・

本日は最年少組、ベイビーたちのお話を。

―――――

さて

そもそも飛行機って生後何カ月から乗れると思いますか

答え:

パスポートを取得した時点で搭乗可

以前、生後3週間の赤ちゃんを連れた外国人ママが乗っていらしたことがあります。「おかしいでしょ?」とくすくす笑いながらパスポートの写真ページを見せてくれました。

なんと!

写っていたのは、「産まれました、なう!」な状態。

そうよね。パスポート取得に1週間そこそこかかるんだから写真はどうしたってこうなるはず。ちなみに入国の際は当然、審査官による大真面目な「顔チェック」があります。


ではさらに質問。

「ベイビー」って何歳まででしょう?チケット代は?


詳しく説明します。

正規航空運賃は以下のようになっています。


0~1歳  ・・・Infant (幼児) 10%

2~11歳 ・・・Child (子供)  75%

12歳以上 ・・・Adult (大人)  100%


ベイビーを、航空業界では「Infantインファントと呼びます。

※Adult1名につきInfant1名まで、2名以降Child料金

※燃油サーチャージなし

Infantに座席はあてがわれません。

ただし航空各社ではBaby Bassinetベイビー・バシネットを用意しています。前方の壁に取り付ける、アレです。

ここで問題になるのがInfantのサイズ。

安全上、Bassinetには重量制限がありまして

多くのエアラインはこれを「10kg未満」と設定しています。

Bassinetを使用できない場合、座席のないベイビーはどこへ行くか。

そうです、

保護者の膝の上です。

新幹線や国内線ならまだしも10時間以上の国際線、

その負担たるや・・・ああおそろしい想像できません

保護者の方々はこのあたりをよく理解していらっしゃり、

「(体重を考えて)旅行を前倒ししました。」

「もう使えないんですよ。大丈夫、根性でがんばります。」

「前回抱っこで10時間。もう疲れちゃって。今回は高いけど座席買うことにしたの。」

等々・・・

夏の繁忙期はBassinetも競争が激しく、すべてのInfantに行きわたるとは限りません。満席が確定している便ではあえてChild料金(75%)で申し込み、1席お買い上げになる上記のようなお客さまも多々。

(Child料金にはAdultと同額の燃油サーチャージが必要)

陰ながらの努力・工夫、本当に恐れ入ります。


ところで

「10kg」ってだいたい生後12カ月の体重なんだそう。

しかし

こんなのあくまで目安。

10kg = 12カ月? 

ノンノン、欧米のベイビーたちは発育が良いのです。

とくにオランダ、

出生時 4000g なんて言ったらウソに聞こえるでしょ? 

「本気」と書いて「マジ」と読みます。

生後6カ月でBassinetからはみ出し刑事という例をいくつも見てきた大将、

学んだことは

「ベイビーいろいろ」

そういえば小柄&筋肉質な1歳半の子なんかも超危険だったわね。
抜群の安定感でまさかのF難度をご披露、

「仁王立ちin Bassinet

!?

・・・お客さま、高得点ですがこちら審判団は心臓がいくつあっても足りません。

まあこんな諸事情により機内では月齢にこだわらず臨機応変な対応をしています。


無事に席が決まればInfantはもう本当にそれぞれ。

ひたすら眠る子

ごきげんな笑顔を振りまきクルーをメロメロにする子

消灯したキャビンで泣きやまない子(お母さん憔悴しきってます)

そして

なんとか11時間を乗り切ったあかつきにはなぜか、

みんなスヤスヤ・zzz

!!

Oh-マイガー!

なんてタイミング。これから降りるのよッ!

ずっしり重くなったベイビーを保護者の方はおこさないように、ぐずらせないように、そーっと抱いて連れていきます。後ろから我々クルーがカバン持ち。ドアで荷物をお渡ししてお別れです。

バイバイ可愛い未来のFrequent Flyerたち。

保護者の皆さん、懲りずにまたご利用くださいね^^

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集団sick

オランダ→日本

離陸後のサービスで食事を残した学生の男性客がいた。

「お食事召し上がりませんか?」

「あ、もういいです。」

「お下げしますね。」

トレイを回収しながらそれとなく様子を見る。

「・・・お水ください。」

「かしこまりました。」

若いのにmeal skipなんて疲れてるのかしら。

狭い通路での回収作業も終わりに近づいたその時、背後のトイレで人の気配が。

パタンと戸が閉まる。

さっきの男性?なんだかすごく急いでいたみたい。

トイレから正面(機内後方)へ視線を戻すと、若い女性が「通してほしい」と言いたげな表情で立っていた。そうするには目の前で通路をふさぐ私のカートを非常口付近まで引き戻す必要がある。

「お化粧室ですか?」

「はい。」

「いまお通ししますね。」

パタパタ・・・

・・・バタン

あらこっちもurgent(緊急)?

キャビンでしばし考える。

食事残した方、数人いたよね。回収中いつも以上に「お水ください」って言われた。しかもみんな若い乗客。いつもなら年配のお客さまがお薬用に頼んでくる程度なのに。

オランダ人クルーに尋ねたら、即答。

「さっきトイレへ行った人私のエリアのお客様よ。食事まったく手をつけてなかった。」

勘が、悪い方向へ働く。

トイレに駆け込んだ女性のお友達らしき方に声をかけてみた。

「失礼ですが団体旅行のお客様ですか?」

「はい」

「添乗員さんの座席番号をおしえてください。」

―――――――

添乗員である女性は明らかに動揺していた。簡単な質問に対しまとまりのない長いセンテンスを返してしてくる。

それでも会話の中から

①グループ構成が 高校生22名、教員2名、添乗員1名、計25名だということ

②飛行機に乗る前、2~3名の生徒が吐き気を訴えていたこと

③今朝は早起きしてロンドンを出発した上乗継ぎもあったため疲れが出たのだと理解したこと

など、重要な情報をいくつか拾い取った。

今度は「先生」と呼ばれる男性の元へ。

現状を説明し質問に入る。

先生が最初の質問に答えようとしたとき、となりに来ていた添乗員さんが「あの、」と水を差した。

彼女は先生に耳打ちし、先生は方耳を預けながら何度も頷いていた。急ぎ足でその場を立ち去る添乗員さん。

怪しさ120%・・・

ま、予想はつくわ。とにかくクルーに報告ね。

先生との短い会話の後、ギャリーへ向け歩き出すと・・・

!?

目に入った光景に思わずOh My God !!

添乗員の女性が何やらメモをかざし、生徒の席を回っている。

メモを読み終わり「わかった」と無言で頷く生徒たち。

まったく!

さっきの耳打ちといいコレといい、なんて古典的かつわかりやすい内緒話・・・

あークラクラしてきた。

背後に近寄り、その無謀な活動を止める。

「それ(メモ)をこちらに渡してください。」

「(ハッ!!) なんでもありません。」

「お客様の健康状態を把握する必要があります。メモに何が書いてあるかおしえてください。」

「それは・・・できません!」(メモを隠す)

「そうですか、わかりました。」

はーヤレヤレ完全に嘘ついてるなこの人。

とにかくギャリーへ戻ろう。パーサーに報告ね。

ギャリーはすでにトイレご用達団体の話題で持ち切り。待ってましたとばかりに大将を出迎えるオランダ人クルー。ほれごらん、みんな気づいてるっちゅーの。

「さっき新規の(?)生徒がSick Bag持ってそこのトイレに駆け込んでったの!」

「席でぐったりしてる子もいる。」

「みんな水ばかり頼むんだもん、絶対おかしい!」

あーだこーだ協議の結果、添乗員さんを問い詰めて事実を吐かせようおしえていただこうということに。

ハイ、特攻隊長再び行ってまいりまーす。

「お客様、すみませんが再度お話をうかがえますか?」

「あ、ハイ・・・」

あら今度はすんなりだわ。

話が長くなることを予想しギャリーへ移動。メモについて改めて問いただす。

「あの・・・、正直に申し上げます・・・」

―――――――

そこには想像以上に悪いシナリオが用意されていた。

《おう吐・下痢を訴えた生徒の数(合計)》

05:50 ロンドンのホテル出発時・・・3名

14:00 アムステルダムにて、日本線搭乗前・・・6名

17:30(現在)・・・8名

あれ?

さっき聞いた時は「搭乗前に2~3人」って。だいぶサバ読んだわね。

しかも搭乗してからの数時間で8人に増えてる。

22人中8人

食中毒?感染症?何かが疑われる人数と症状。

いま現在もトイレから出てこられない女子生徒を思い浮かべる。

「この件は搭乗前、グラウンドスタッフにお伝えいただきましたか?」

「・・・いいえ。」

「すでに6人が同じ症状を訴えていたんですよね。22人中6人。航空会社側としては知らされていなければならない情報なんですが。」

病気の客を乗せたいエアラインがあるだろうか。

―あらゆるリスクを排除する―

旅客便の鉄則だ。

搭乗時、乗客の健康状態や持ち物に目を光らせ怪しいと思えばただちに報告、必要な場合はオフロード(旅客を降ろすこと)するよう、われわれクルーは徹底的に教え込まれる。

だから出発前グラウンドスタッフと最後の挨拶を交わしドアを閉める瞬間は、今でも緊張する。

それが意味すること=「あとは私たちでやります」 だから。

「あの・・・」

小さな声で女性が続ける。

「生徒たちには搭乗前、グラウンドスタッフやクルーさんに知らせないよう指示しました。乗せてもらえなくなるかもしれないと考えて。先ほどのメモですが、この先体調が悪くなったら正直にクルーさんまで申し出るように、と書きました。」

やっぱり・・・

となりにいたパーサー、ぽかーんとあきれ顔。

そうよね。のっぴきならない事情で臨月なのを隠して乗ってくる外国人妊婦はさんざん見たけど、集団ウソの日本人患者は大将も初めてよ。言いたいことはわかる。

「キャプテンに追加情報持ってくからできるだけ詳しいことおしえてもらって」

「ハーイ」

パーサー、飲みかけのコーヒーをすすりにギャリーの奥へ。

「正直に言ってくださってありがとうございます。ひとまず現状を把握したいんですが、生徒さん一人一人に体調を聞いてまわれますか。搭乗前の食事についてもおしえてください。」

―――――――

キャビンは消灯。

9人目がおう吐した。

キャプテンはオランダ、スキポール空港のヘルス・ケアと無線でやりとりし、今のところ集団食中毒の可能性が高いという見解をクルーに伝えた。ただしウィルス感染の可能性もまだ捨てきれないと。

「トイレ、別にできるか?」

「わかりました。後方2カ所を彼ら専用にします。」

「水分補給と。情報共有、頼むな。」

「了解です。」

コックピットを出て考える。

今日朝食を摂る前から数人に症状が出てた、ってことは昨日のディナー?だけど食べ物にあたった場合2~3時間後には体が反応するはず。バクテリアの種類で潜伏期間が違う・・・?

とにかく感染症だけは勘弁よ。

ギャリーにはヴォッカのボトル(※)が鎮座していた。

「アッ!きたきた、大将も早く!」

急かすオランダ人クルー。ここはいつもにぎやかで癒される。

※ヴォッカで手洗い

以前勤めた航空会社は途上国路線が多く病気のお客様の扱いも日常茶飯事。諸々の処理の後、クルーはドリンク・カートからヴォッカを取り出し簡易消毒液に使っていた。

世界一衛生的といわれる日本線でコレやるなんて。想像だにしなかったわ。

「助かる。ありがと♪」

笑顔の心中は、

変なウィルスもらってなるものか!

殺菌、殺菌殺、菌ーッ!!

―――――――

その後も10人、11人・・・おう吐する生徒は増え続けた。

サービス終了以来、大将とパーサーは生徒集団にかかりっきりだ。トイレチェックやコールベル対応等、本来の仕事ができずにいる。満席のキャビンをマイナス2でまわすしわ寄せがそのまま同僚とその他のお客さまへいってしまう。

まったく異常なしだった生徒が突然座席で吐いてしまうというケースも数件あり、その都度我々クルーはビニール袋や手袋を持って駆けつけた。汚物は自身で処理、指定のトイレに捨てるよう説明する。

猛省を経てすっかり協力的になった添乗員さんが生徒を手伝う。この人も付きっきりだ。

予期せぬ急病ならまだしょうがないわよ。

わかってて持ち込むなんてもう!

ふつふつとこみ上げる、やり場のない怒り。

何より辛いのは生徒たち。

吐くほど気分がすぐれない状態で10時間半のフライトを強制され、「大人の都合」の犠牲になった。

「あと○時間、あと○時間・・・」 カウントしながらじっと耐えているんだろう。

―――――――

目的地到着30分前、

不調を訴える生徒は13名に達した。

キャプテンは集団食中毒でほぼ間違いないだろうとの見解を示していた。

同僚に「大変だったね、おつかれさま」とねぎらわれ、私からもお礼を言う。

添乗員さんに挨拶を済ませジャンプシートへ。

タッチ・ダウンの瞬間、

自分の体からすうっと何かが抜けていくのを感じた。

いけないいけない!ドアが開くまでは。

そのまま天に召されちゃうかと思ったわ(笑)。

―――――――

地上では検疫官が待機していた。

学生団体を最後に降機させるよう指示が出る。

一般のお客さまが降りたのを確認し、生徒たちはドアへ向かって力なく歩き始める。うち3人は車イスに乗せられた。

これから彼らは入国審査レーン脇の別室にて健康検査にかかる。長時間機内で耐えたあとの、更なる拘束。どんなにしんどいだろうか。同情してもしきれない。

高校生といえどまだまだ子ども。どうか大人の皆さん、今後は同じことが起こらないよう適切な判断をしてくださいと、切に願ったフライトだった。

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