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集団sick

オランダ→日本

離陸後のサービスで食事を残した学生の男性客がいた。

「お食事召し上がりませんか?」

「あ、もういいです。」

「お下げしますね。」

トレイを回収しながらそれとなく様子を見る。

「・・・お水ください。」

「かしこまりました。」

若いのにmeal skipなんて疲れてるのかしら。

狭い通路での回収作業も終わりに近づいたその時、背後のトイレで人の気配が。

パタンと戸が閉まる。

さっきの男性?なんだかすごく急いでいたみたい。

トイレから正面(機内後方)へ視線を戻すと、若い女性が「通してほしい」と言いたげな表情で立っていた。そうするには目の前で通路をふさぐ私のカートを非常口付近まで引き戻す必要がある。

「お化粧室ですか?」

「はい。」

「いまお通ししますね。」

パタパタ・・・

・・・バタン

あらこっちもurgent(緊急)?

キャビンでしばし考える。

食事残した方、数人いたよね。回収中いつも以上に「お水ください」って言われた。しかもみんな若い乗客。いつもなら年配のお客さまがお薬用に頼んでくる程度なのに。

オランダ人クルーに尋ねたら、即答。

「さっきトイレへ行った人私のエリアのお客様よ。食事まったく手をつけてなかった。」

勘が、悪い方向へ働く。

トイレに駆け込んだ女性のお友達らしき方に声をかけてみた。

「失礼ですが団体旅行のお客様ですか?」

「はい」

「添乗員さんの座席番号をおしえてください。」

―――――――

添乗員である女性は明らかに動揺していた。簡単な質問に対しまとまりのない長いセンテンスを返してしてくる。

それでも会話の中から

①グループ構成が 高校生22名、教員2名、添乗員1名、計25名だということ

②飛行機に乗る前、2~3名の生徒が吐き気を訴えていたこと

③今朝は早起きしてロンドンを出発した上乗継ぎもあったため疲れが出たのだと理解したこと

など、重要な情報をいくつか拾い取った。

今度は「先生」と呼ばれる男性の元へ。

現状を説明し質問に入る。

先生が最初の質問に答えようとしたとき、となりに来ていた添乗員さんが「あの、」と水を差した。

彼女は先生に耳打ちし、先生は方耳を預けながら何度も頷いていた。急ぎ足でその場を立ち去る添乗員さん。

怪しさ120%・・・

ま、予想はつくわ。とにかくクルーに報告ね。

先生との短い会話の後、ギャリーへ向け歩き出すと・・・

!?

目に入った光景に思わずOh My God !!

添乗員の女性が何やらメモをかざし、生徒の席を回っている。

メモを読み終わり「わかった」と無言で頷く生徒たち。

まったく!

さっきの耳打ちといいコレといい、なんて古典的かつわかりやすい内緒話・・・

あークラクラしてきた。

背後に近寄り、その無謀な活動を止める。

「それ(メモ)をこちらに渡してください。」

「(ハッ!!) なんでもありません。」

「お客様の健康状態を把握する必要があります。メモに何が書いてあるかおしえてください。」

「それは・・・できません!」(メモを隠す)

「そうですか、わかりました。」

はーヤレヤレ完全に嘘ついてるなこの人。

とにかくギャリーへ戻ろう。パーサーに報告ね。

ギャリーはすでにトイレご用達団体の話題で持ち切り。待ってましたとばかりに大将を出迎えるオランダ人クルー。ほれごらん、みんな気づいてるっちゅーの。

「さっき新規の(?)生徒がSick Bag持ってそこのトイレに駆け込んでったの!」

「席でぐったりしてる子もいる。」

「みんな水ばかり頼むんだもん、絶対おかしい!」

あーだこーだ協議の結果、添乗員さんを問い詰めて事実を吐かせようおしえていただこうということに。

ハイ、特攻隊長再び行ってまいりまーす。

「お客様、すみませんが再度お話をうかがえますか?」

「あ、ハイ・・・」

あら今度はすんなりだわ。

話が長くなることを予想しギャリーへ移動。メモについて改めて問いただす。

「あの・・・、正直に申し上げます・・・」

―――――――

そこには想像以上に悪いシナリオが用意されていた。

《おう吐・下痢を訴えた生徒の数(合計)》

05:50 ロンドンのホテル出発時・・・3名

14:00 アムステルダムにて、日本線搭乗前・・・6名

17:30(現在)・・・8名

あれ?

さっき聞いた時は「搭乗前に2~3人」って。だいぶサバ読んだわね。

しかも搭乗してからの数時間で8人に増えてる。

22人中8人

食中毒?感染症?何かが疑われる人数と症状。

いま現在もトイレから出てこられない女子生徒を思い浮かべる。

「この件は搭乗前、グラウンドスタッフにお伝えいただきましたか?」

「・・・いいえ。」

「すでに6人が同じ症状を訴えていたんですよね。22人中6人。航空会社側としては知らされていなければならない情報なんですが。」

病気の客を乗せたいエアラインがあるだろうか。

―あらゆるリスクを排除する―

旅客便の鉄則だ。

搭乗時、乗客の健康状態や持ち物に目を光らせ怪しいと思えばただちに報告、必要な場合はオフロード(旅客を降ろすこと)するよう、われわれクルーは徹底的に教え込まれる。

だから出発前グラウンドスタッフと最後の挨拶を交わしドアを閉める瞬間は、今でも緊張する。

それが意味すること=「あとは私たちでやります」 だから。

「あの・・・」

小さな声で女性が続ける。

「生徒たちには搭乗前、グラウンドスタッフやクルーさんに知らせないよう指示しました。乗せてもらえなくなるかもしれないと考えて。先ほどのメモですが、この先体調が悪くなったら正直にクルーさんまで申し出るように、と書きました。」

やっぱり・・・

となりにいたパーサー、ぽかーんとあきれ顔。

そうよね。のっぴきならない事情で臨月なのを隠して乗ってくる外国人妊婦はさんざん見たけど、集団ウソの日本人患者は大将も初めてよ。言いたいことはわかる。

「キャプテンに追加情報持ってくからできるだけ詳しいことおしえてもらって」

「ハーイ」

パーサー、飲みかけのコーヒーをすすりにギャリーの奥へ。

「正直に言ってくださってありがとうございます。ひとまず現状を把握したいんですが、生徒さん一人一人に体調を聞いてまわれますか。搭乗前の食事についてもおしえてください。」

―――――――

キャビンは消灯。

9人目がおう吐した。

キャプテンはオランダ、スキポール空港のヘルス・ケアと無線でやりとりし、今のところ集団食中毒の可能性が高いという見解をクルーに伝えた。ただしウィルス感染の可能性もまだ捨てきれないと。

「トイレ、別にできるか?」

「わかりました。後方2カ所を彼ら専用にします。」

「水分補給と。情報共有、頼むな。」

「了解です。」

コックピットを出て考える。

今日朝食を摂る前から数人に症状が出てた、ってことは昨日のディナー?だけど食べ物にあたった場合2~3時間後には体が反応するはず。バクテリアの種類で潜伏期間が違う・・・?

とにかく感染症だけは勘弁よ。

ギャリーにはヴォッカのボトル(※)が鎮座していた。

「アッ!きたきた、大将も早く!」

急かすオランダ人クルー。ここはいつもにぎやかで癒される。

※ヴォッカで手洗い

以前勤めた航空会社は途上国路線が多く病気のお客様の扱いも日常茶飯事。諸々の処理の後、クルーはドリンク・カートからヴォッカを取り出し簡易消毒液に使っていた。

世界一衛生的といわれる日本線でコレやるなんて。想像だにしなかったわ。

「助かる。ありがと♪」

笑顔の心中は、

変なウィルスもらってなるものか!

殺菌、殺菌殺、菌ーッ!!

―――――――

その後も10人、11人・・・おう吐する生徒は増え続けた。

サービス終了以来、大将とパーサーは生徒集団にかかりっきりだ。トイレチェックやコールベル対応等、本来の仕事ができずにいる。満席のキャビンをマイナス2でまわすしわ寄せがそのまま同僚とその他のお客さまへいってしまう。

まったく異常なしだった生徒が突然座席で吐いてしまうというケースも数件あり、その都度我々クルーはビニール袋や手袋を持って駆けつけた。汚物は自身で処理、指定のトイレに捨てるよう説明する。

猛省を経てすっかり協力的になった添乗員さんが生徒を手伝う。この人も付きっきりだ。

予期せぬ急病ならまだしょうがないわよ。

わかってて持ち込むなんてもう!

ふつふつとこみ上げる、やり場のない怒り。

何より辛いのは生徒たち。

吐くほど気分がすぐれない状態で10時間半のフライトを強制され、「大人の都合」の犠牲になった。

「あと○時間、あと○時間・・・」 カウントしながらじっと耐えているんだろう。

―――――――

目的地到着30分前、

不調を訴える生徒は13名に達した。

キャプテンは集団食中毒でほぼ間違いないだろうとの見解を示していた。

同僚に「大変だったね、おつかれさま」とねぎらわれ、私からもお礼を言う。

添乗員さんに挨拶を済ませジャンプシートへ。

タッチ・ダウンの瞬間、

自分の体からすうっと何かが抜けていくのを感じた。

いけないいけない!ドアが開くまでは。

そのまま天に召されちゃうかと思ったわ(笑)。

―――――――

地上では検疫官が待機していた。

学生団体を最後に降機させるよう指示が出る。

一般のお客さまが降りたのを確認し、生徒たちはドアへ向かって力なく歩き始める。うち3人は車イスに乗せられた。

これから彼らは入国審査レーン脇の別室にて健康検査にかかる。長時間機内で耐えたあとの、更なる拘束。どんなにしんどいだろうか。同情してもしきれない。

高校生といえどまだまだ子ども。どうか大人の皆さん、今後は同じことが起こらないよう適切な判断をしてくださいと、切に願ったフライトだった。

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コメント

もうブログやめてしまったのかと思ってました。
臨場感のある文面、興味深かったです!

投稿: | 2013年4月 3日 (水) 20時38分

初めてのコメントなんですが、更新お待ちしておりました。
しかもハラハラの内容で(汗)さすが大将さんです。
また現場のお話し聞かせ下さいね!

投稿: ベロン | 2013年9月18日 (水) 20時18分

<?さん>
ふふふ。去年の怠慢は反省しております。正直なところ結婚でヒマなしでした。タイトルどおりぼちぼち続けますのでよろしくお願いします。

<べロンさん>
コメントありがとうございます。
現在の担当は1路線のみですが、それでも毎回異なるお客さま&クルーと飛んでいればびっくりするほどの変化があります。気長にお付き合いくださいね。

投稿: 大将 | 2013年9月24日 (火) 15時52分

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